EC(Electronic Commerce)の発展は、ビジネスや私たちの生活に大きな影響を与えています。
ECは「電子商取引」のことであり、一般の消費者に商品を販売するだけでなく、
消費者同士や企業同士の取引など、あらゆる取引に利用されています。
EC業界を支えているのは、WEBサイトを運営するIT業界と商品を発注者まで配送する物流業界です。
IT業界では、AI技術や人工知能を活用し、日々革新を遂げています。
一方、物流業界では大きな課題を抱えており、その影響はEC業界だけでなく、製造業や建設業にも及んでいます。
そこで今回は、物流業界の課題が建設業界に与える影響について解説します。
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▼ 目次 |
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1.物流業界の2024年問題とは何か |
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2. 物流の2024年問題が建設業界に及ぼす影響は? |
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3. 建設業界が取り組むべき対策 |
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3-1. DX化による業務効率化 |
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3-2. 労働時間や条件の見直し |
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3-3. 顧客との価格交渉 |
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4. まとめ |
1.物流業界の2024年問題とは何か
物流業界の2024年問題とは、2024年4月以降にドライバーの時間外労働時間が規制されることによって
生じる問題の総称のことです。
物流業界は、ドライバーの慢性的な長時間労働によって人手不足を補っていましたが、
2024年4月以降ドライバーの時間外労働時間は年間960時間に制限されるため、
業務量に対して深刻な人手不足になることが予想されています。
そもそも、働き方改革関連法に伴い労働基準法が改正されることの狙いは、
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や育児や介護との両立など、働く人々が多様な働き方を選択できる社会の実現です。
改正労働基準法で定められた時間外労働時間の上限は、原則月45時間、年360時間。
大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月から施行されていました。
物流や建設・医療関係については猶予が設けられていましたが、2024年4月以降適用されます。
またドライバーにとって絶対に避けたい交通事故ですが、現実はドライバーの長時間労働が原因による事故だけでなく、
長距離の連続運転による事故も発生しています。
物流業界には430(ヨンサンマル)休憩というルールがあり、4時間を超えて連続運転をする場合には、
30分以上の休憩等を確保しなければなりません。
改正前はこちらの休憩時間も単純に「運転をしなければよい」とされていました。
しかし改正後は「必ず休憩にあてなければならない」とされるため、ドライバーは運転時間にも注意する必要があります。
2.物流の2024年問題が建設業界に及ぼす影響は?
では物流業界の2024年問題によって、建設業界にはどのような影響があるのでしょうか。
まず考えられるのが、建設工事に関わる資材が、予定通りに届かなくなる可能性があることです。
建設工事に使われる資材は、大きな物が多く数もたくさん必要です。
運搬に使用する車両も大型の特殊車両が必要となることもあり、対応できる運転手も限られます。
物流業界の人手不足により、工事の日程通りに資材が届かないと、顧客と契約した期限までに建物が完成できなくなる可能性があります。
次に考えられる影響は、運送費用の高騰です。工事の日程通りに資材が届かないとなると、
余分に費用をかけて別途運搬方法を確保しなければなりません。
建設業界では資材の価格高騰によって、建設コストが上昇している状況です。
物流業界の2024年問題によって、建設業界にも資材到着の遅延や運送費高騰などの問題が発生する可能性があります。
3.建設業界が取り組むべき対策
ここでは建設業界が取り組むべき対策について説明します。
3-1.DX化による業務効率化
政府が実施を支援する働き方改革の取り組みには、DX化の推進があります。
生産性の向上や生活と仕事の両立を支援するために、ハードウェアやソフトウェアの環境整備を進め、
最新のIT技術を活用する必要があります。
しかし、これまでアナログ的な業務が多いとされていた建設業では、何から取り組めば良いかわからないことも多いことでしょう。
業務のDX化を推進するためには、ITリテラシーが高い人材が不可欠です。
社内でデジタル人材を育成し各部署に配属することで、職場の業務を一から見直すことはもちろん、
デジタル化に抵抗感を持つ人たちも、業務の効率化を実感することに繋がります。
身近な取り組みとしては、書類の保管や管理業務のデジタル化が挙げられます。
さらにクラウドサービスなどを活用して、会社全体の情報を連携することでも効率化を図ることができます。
一般的にDX化による業務の効率化は、主に事務作業に関する事例が多く紹介されていますが、
現場の作業においてもロボットを利用し、足場の組立や解体を行う取り組みが行われています。
足場の組立や解体作業では、多くの資材運搬を行わなければなりません。
これまで工事現場での運搬作業は作業者が行っていましたが、肉体的負担が大きい運搬作業をロボットが行うことで、
少ない作業者によって工事を行うことができます。現在はまだ試験段階ですが、近い将来実用化することが期待されています。
3-2.労働時間や条件の見直し
DX化による業務効率化を行ったとしても、根本的な人手不足が解消されるとは限りません。
根本的な人手不足を解消するためには、足場業界で働く人を増やす必要があります。
人手不足の原因は、若年層の在職率が著しく減少していることや、リーマンショック以降に建設業の需要が一時的に激減したため、
仕事の無くなった職人たちの多くが他の職種に転職したことも挙げられます。
足場業界や建設業界では、若年層の就業者を増やすために、工業高校などと連携して技能体験研修を行い、
建設業に関する理解を深める活動を実施しています。また人材の流出を防ぐために、
労働条件や賃金条件の見直しを行って待遇改善に取り組む必要もあります。
さらに社会保険の加入や福利厚生の拡充といったことについても改善し、人手不足解消のためにあらゆる対策を実施することも欠かせません。
経営者にとっては財務的な負担となりますが、賃金上昇や待遇改善については、働き方改革の一環として国や関係団体から要請されています。
3-3.顧客との価格交渉
DX化による業務改善や、待遇改善を行うためには資金が必要となるため、
経営者は発注者に対しての価格交渉が求められます。
2024年4月以降、単に受注を増やすだけでは労働時間の上限規制があるため、売り上げを確保することが難しくなるでしょう。
発注者もこれまでと同じコストでは、同様のサービスを提供してもらえなくなる可能性があります。
政府も2024年問題の対策として、適切な価格転換を促しており、価格交渉の実態を把握するために、
毎年9月と3月に調査を実施して結果を公表しています。
参考:
中小企業庁「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/follow-up/
価格交渉に応じない企業は名前を公表されるため、これまで価格交渉に応じてもらえなかった状況が改善傾向となって、
今後は適切な価格交渉が実施しやすくなります。
4.まとめ
今回は、物流業界の2024年問題が建設業界にどのような影響を及ぼすのかについて解説しました。
2024年4月からは、物流業界も建設業界も法律の猶予期間が終了し、違反をすれば罰則を受けます。
両業界ともガイドラインを作成してルールを順守する準備を進めていますが、2024年問題の解決策は人手不足の解消です。
そのために、発注者に対して適切な価格交渉を行い、業務のDX化や待遇改善に取り組みましょう。